市境の県道沿いには半端な規模のホテルが1棟建っている。潰れずそこにあるということは、利用客はそれなりにいるのだろう。
いや、今でも本当にあるのだろうか。最近はそこの近くを通ることもなかったし、通っていたとしても気にしていないので記憶には残っていない。
何の用事もなくただ外に出た俺は、何となくそれが気になり、市境に向かうことにした。
月に一度跨るかどうかという具合で放ったらかしにしている自転車のシートをぼろ布で拭い、タイヤを摘むとそれなりの弾力があったので、そのまま漕ぎ出す。毎日暮らしている街も、視点の高さと速度が違うだけでどこか別の街の様に感じる。しかししばらく走ると、それはもっと違う種類の違和感に感じられ、学生の頃から長く住んでいる街だが余所余所しささえ覚える。
平凡な低層住宅が並ぶ街を抜けると、荒れた畑だか空き地だかがしばらく続く。その先には、誰が何を買いに来ているのか良く分からない様なディスカウントストアや閉まったままの並行輸入車ディーラーが並ぶ県道が見える。
果たして、件のホテルは記憶の通り県道の向こう側にあった。
俺は歩道の自販機で缶コーヒーを買い、それを飲みながら自転車に跨ったままホテルを眺めた。
続きは「出口、らしきもの」で。
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